あなたにとって、顧問税理士は一人。でも税理士にとって、あなたは何十社のうちの一社。

あなたにとって、顧問税理士は一人。でも税理士にとって、あなたは何十社のうちの一社です。

冷たいわけでも、興味がないわけでもありません。ただ、そこには、静かな限界があります。

事業承継という大仕事を行う上で、手続きの素人である経営者や後継者と、専門家の税理士の間に存在する、見えにくい壁の存在を明らかにする必要があります。

これは確かな真実として、全ての人が冷静に受け止めておくべき真理なのですが、人間だからついつい契約外に踏み込んでしまいます。

税理士も人間だから、情的に助けたいと思ってもいくつかの制限があって、手を出せない現実があるということを知っておくべきです。


30-Second Summary

二代目が、顧問税理士に対して抱く、ちょっとした違和感があります。
決算の打ち合わせのとき、悩みを少し打ち明けても、思ったより淡々と流されてしまう。でも、これは税理士に人間味がないからではありません。

顧問先を何十社も抱える税理士にとっては、一件一件の重い相談に深く寄り添い続けることは、構造的に難しいという事情があります。

この記事では、心理学の「共感疲労」という視点から、税理士が事務的に見えてしまう本当の理由を整理し、その空白地帯に何が必要なのかについて、お伝えします。

事業承継を確実に成功に導くためにも、この話は絶対に理解しておく必要があります。


あなたにとって、顧問税理士は一人。でも税理士にとって、あなたは何十社のうちの一社です。

(今日で、この決算報告は3件目だな。次の面談まで、あと40分か。)

(さっきの社長、経営の話をしながら、途中から様子がおかしかったな。何か、抱えているものがありそうだった。……でも、こちらから深く聞いていいものか。次の顧問先も待っているし。)

こんな独り言、多くの税理士の頭の中で、実は日常的に繰り返されています。


なぜ、税理士は事務的に見えてしまうのか

事業承継の手続きを進めてきて、二代目経営者が、顧問税理士に対して抱く違和感の一つに、こういうものがあります。

決算の打ち合わせの最中、ふと、経営の悩みを少しだけ口にしてみる。
「実は最近、社員との関係がうまくいっていなくて」
「先代のやり方と、どうしても比べられてしまって」。

すると、税理士から返ってくるのは、共感の言葉よりも先に、「なるほど、では次に数字の話に移りましょうか」という、少し事務的な反応です。

これって、正直、少し寂しく感じることがあると思います。
もう少し、話を聞いてほしかったなぁと。
さらに、もう少し、一緒に悩んでくれてもいいと思うんだけど。

でも、ここではっきりさせておきたいことがあります。
これは、税理士に人間味がないからでも、あなたへの関心が薄いからでもありません。

この事務的な対応には、ある意味で深い理由が存在します。


あなたにとっては一人、税理士にとっては何十社のうちの一社

まず、単純な数の話をしておきますね。

あなたにとって、顧問税理士は、たった一人です。
だからこそ、その一人には、自分の状況を深く理解してほしいと、自然に期待してしまいます。

ところが、税理士の側から見ると、事情はまったく違います。
多くの税理士は、数十社の顧問先を同時に抱えています。それぞれの会社に、それぞれの経営者がいて、それぞれに固有の事情や悩みがあります。

もし、税理士が一件ごとに、経営者の心理的な悩みにまで深く寄り添おうとしたら、どうなるでしょうか?

物理的に、時間が足りなくなります。
精神的にもそれに付き合うほどの余裕はないはずです。

これは、熱意や誠実さの問題ではなくて、単純な算数の問題なんですよね。

「でもなぁ、高い高い顧問料も払っているんだから、それくらいの相談には乗って欲しよな」
確かにこれは、人として当たり前の感情。

ですが、ここに明確な一線を引く理由がることを是非知ってください。

私も、事業承継の現場に立ち会う中で、このような場面に、何度も出会いましたが、客観的に見ていると、そこには目には見えない温度差というものが、かなり大きく存在しています。

実はここに、信頼関係すら壊しかねない落とし穴があると思っています。


「共感疲労」という、もう一つの限界

そして、実はこれ以上に厄介な、もう一つの壁があります。

私の専門の心理学の知見から読み解いてみましょう。

それは、共感疲労(Compassion Fatigue)と呼ばれる現象です。

1995年、心理学者チャールズ・フィグリーが提唱した概念で、看護師やカウンセラーなど、日常的に他者の苦しみや重い感情に接し続ける専門職の人々に、共通して見られる状態です。

繰り返し、他者の苦悩に真剣に向き合い続けると、人の共感的な反応は、少しずつ鈍っていきます。
これは、冷淡になったということではありません。
むしろ、自分の心をすり減らさないための、自然な防御反応だとされています。

税理士も、実は同じ構造の中にいます。
毎日、何件もの顧問先を回りながら、それぞれの経営者の、大なり小なりの悩みに触れ続けています。

もしも、その一つひとつに深く感情移入していたら、税理士自身の心が、先に持たなくなってしまいます。

だから、無意識のうちに、悩みの部分には少し距離を置き、数字や手続きという、自分が確実に扱える領域に、話を戻してしまう。

これは、あなたを軽んじているのではなく、税理士自身が、日々の業務を続けていくために身につけた、一種の生存戦略なんです。

この一点を理解するだけでも、多くのことがスムーズに進み始めます。


もう一つ、実務的な一線がある

さらに言うと、たとえ税理士に十分な時間と、共感疲労とは無縁の体力があったとしても、まだ壁は残ります。

税理士は、税務と会計のプロフェッショナルです。
でも、経営者の心理的な苦悩に、どう踏み込み、どう向き合うべきかについては、専門的な訓練を受けていません。

これは、税理士としての力量の問題ではなく、そもそも専門領域(スコープ)が違う、という話です。

踏み込みたくても、どう踏み込めばいいのか分からない。
下手に踏み込んで、余計に関係をこじらせてしまうくらいなら、専門外のことには触れない方がいい、という判断は、むしろ誠実な判断とも言えます。

そしてもう一つ、仮に心理の専門家が、この隙間に気づいたとしても、決算書も読めず、事業承継特有の力学も知らなければ、その悩みが実際に経営のどこへ影響しているのかまでは、正確に捉えられません。

専門性は、一つ持っているだけでは、この空白地帯には足りないんですよね。

つまり、税理士が事務的に見える背景には、二つの限界が重なっています。

観点見えている姿実際に起きていること
悩みを口にした時の反応淡々と、数字の話に戻される何十社分の悩みに触れ続けた結果の、共感疲労という自然な防御反応
深く踏み込んでこない理由興味がない、他人事に見える心理的な領域は専門外であり、踏み込む技術も訓練もない
税理士自身の内心特に何も感じていないように見える「気づいてはいるが、時間も、踏み込み方もわからない」という葛藤
本当の問題の所在税理士の人間性誰の役割にも、もともと含まれていなかった空白地帯

左側だけを見ると、税理士に不満を感じるかもしれません。

でも右側を見ると、これは誰か一人の落ち度ではなく、もともと、そこに誰の役割も設計されていなかったという、構造上の空白だったことが分かります。


実は、ここからが本当に面白いところです

さて、ここまでの話で、「税理士が冷たいわけではない理由」は、分かっていただけたと思います。

でも、ここで一つ、疑問が残ります。

数の問題も、共感疲労も、専門外という一線も、税理士にとってはどうしようもない、構造的な制約です。

だとすると、この空白地帯は、誰にも埋められないまま、これからもずっと残り続けるのでしょうか?

実をいうと、私は、そうは思っていません。

なぜなら、この空白を埋めるために必要な条件は、実はとても明確だからです。

一つ目は、たくさんの顧問先を抱えていないこと。
共感疲労を起こすほどの案件数を抱えていなければ、一件一件に、深く、時間をかけて向き合うことができます。

二つ目は、心理的な領域に踏み込む、専門的な訓練を受けていること。
ただ話を聞くだけでなく、本人も気づいていない感情や判断の構造を、丁寧に引き出す技術です。

三つ目は、経営という文脈そのものを理解していること。
心理の専門家であっても、決算書も読めず、事業承継特有の力学も知らなければ、経営者の悩みの本質には届きません。

この3つの条件を、同時に満たす存在は、正直、ほとんどいません。
(私の知る限り、「いない!」と言い切れます)

税理士は①を満たせず、一般的な心理カウンセラーは②は満たせても③を満たせず、経営コンサルタントは③は満たせても②を満たせない。
それぞれの専門家が、それぞれの理由で、この空白地帯には手を出せずにいます。

以前、ある税理士の方から、こんな形でご相談をいただいたことがあります。

「顧問先の二代目社長、決算の数字自体は悪くないんです。だけど、打ち合わせのたびに、どこか上の空というか……何か言いたそうにしているのに、結局いつも数字の話で終わってしまって。うちでは、それ以上は踏み込めなくて」

その税理士の方は、何も見過ごしていたわけではありませんでした。
むしろ、誰よりも早く、異変に気づいていた一人でした。
ただ、その先に進む手段を、持っていなかっただけです。

実際にその経営者と話してみると、決算の数字には表れない話が、いくつも出てきました。
先代から受け継いだ判断のいくつかが、今の時代にはもう合わなくなっている。

でも、それを変えることは、先代を否定するようで、なかなか踏み切れずにいる。
税理士との打ち合わせで、何度も言いかけては、飲み込んでいた話でした。

税理士の方の違和感は、正しかったんです。ただ、その違和感の先を扱う場所が、それまで、どこにもなかっただけなんですよね。

私が、日本で唯一の”デコーダー”として、この場所に立っているのは、まさにこの空白地帯を埋めるためなのです。

数十社を抱える必要がないからこそ、一人の経営者の判断の奥にある構造に、時間をかけて向き合える。

心理カウンセラーとしての訓練を受けているからこそ、本人も言葉にできていない感情や判断基準を、丁寧に引き出せる。
そして、HRの現場で経営の実務に触れてきたからこそ、その悩みが経営のどこに影響しているのかを、正しく理解できる。

税理士が冷たいのではありません。
経営者が弱いのでもありません。

ただ、誰の役割にも含まれていなかった隙間が、確かにあった。
そして今、その隙間には、行き先ができています。

苦悩する経営者も、誠実に手が届かないもどかしさを抱えていた税理士も、どうか安心してください。この空白地帯には、もう、私がいます。


こんな方に、読んでいただきたい記事です

税理士の方へ
もし、顧問先の経営者に、税務の相談を超えた重さを感じたことがあるなら。
その先の対応を、無理に一人で抱え込む必要はありません。
安心して、任せていただける場所があります。

後継者・経営者の方へ
顧問税理士の対応に、少し寂しさを感じたことがあるなら。
それは、税理士があなたに関心がないからではありません。
その先を扱う専門性が、別に必要なだけです。

以下のHUB記事では、この「箱は引き継げても、思考は引き継げない」という構造について、より深く解説しています。ぜひ、あわせてお読みください。

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ぜひ、お会いしましょう。

「思考資産」承継デザイン研究所

主宰:霧香ゆうひ

著者プロフィール
kirika-yuhi

著者:詳細プロフィール

「思考資産」承継デザイン研究所 
所長: 霧香 ゆうひ(夕燈) デコーダー/心理カウンセラー/作家

1961年生まれ。広島を拠点に全国の事業承継現場で、経営者と後継者の「魂の同期」を支援する専門家。
30年のHRキャリアで組織の力学を、14年の心理カウンセラー経験で人間の深層心理を、11冊の著書を通じて言葉の精錬技術を磨いてきました。

この三つが交わる場所に、私の専門領域があります。

私が提唱する「思考資産」とは、経営者の脳内に点在する「記憶・判断・哲学」をデコード(解読)し、次世代が迷わず使える「経営深層論理(DDL)」として構造化したものです。

法的・税務的な手続き(箱の整理)は専門家に委ね、私はその「中身(魂)」を救い出すことに全力を注ぎます。

一人の経営者の暗黙知を救うことは、組織を救い、文明が積み上げてきた知恵の総量を守ることに繋がる——これが、私がこの仕事を続ける理由です。

3万人超の事業承継・組織再生の現場に伴走してきた、日本唯一のデコーダー。

霧香ゆうひ

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