数字は正しいのに、なぜ承継後に会社は傾くのか?|税理士のジレンマ
完璧なはずの申告書と、風の噂で聞く廃業。
その間にある、専門外という一線の正体。
自社株の評価は、寸分の狂いもなく仕上げた。
事業承継税制の特例も、期限内に、漏れなく申請した。
親族への挨拶回りにも同席し、円満な引き継ぎを、この目で確認した。
書類上、どこから見てもこの案件(事業承継)は、完璧だという自負があった。
それから三年。
風の噂で、自分が担当したあの会社の名前を聞いた。
資金繰りが厳しくて、後継者が社員と揉めているらしい、と。
気になって、手元にあった過去の申告書控えを、もう一度、開いてみる。
何度見返しても、そこに間違いは、一つもない。
やはり完璧だったという自信しかない。
「では、何が悪かったのか?後継者の経営手腕だろうか?」
その自問に、答えは出ない。
出ないまま、次の案件の資料が、机の上に積まれていく。
過去の担当した案件が座礁する話は良く聞く。
今回もそんな、たくさんある普通のことのうちの一つだと捉えるしかない。
それは、自分のやるべきこと、責任は全うしているという、プロフェッショナルの持つ稔侍に他ならない。

その「専門外です」は、本当に線引きだったのか?
税理士として、あなたはこれまで、何十、何百件という事業承継に携わってきたはずです。
おそらくそのたびに、似たような違和感を、何度も覚えてきたのではないでしょうか?
制度上、手続き上は何一つ問題がないのに、代表交代からわずか一年、二年と経つうちに、なぜか組織が軋み始める会社が、決して少なくないという違和感です。
社会問題にすらなりつつあるこの問題、意識に無いほうが不自然ですよね。
けれど、そんな噂を聞くたびに、心のどこかで、こう線を引いてきたはずです。
「そこから先は、自分の専門ではないから」と。
実を言うとこれは、職業倫理として、まったく正しい判断ですし、むしろこれ以外に答えはないと断言できます。
税務や法務の範囲を超えて、経営者の心理にまで踏み込むことは、専門家としての誠実さに反する、とすら言えますから。
けれどどうでしょうか?
少しだけ、正直になって、心の声に耳を傾けてみてください。
その線引きは、本当に「専門外だから」という理由だけで、引かれたものだったでしょうか。
役割と責任という立て分けの前に、人としての感情が動くこともあると思います。
それが人間として自然なことだと思います。
何度も見せられた末に、諦めることを覚える心理
私の専門分野から少しお話をさせてください。
心理学に、「学習性無力感」という現象があります。
これは、どれだけ努力しても状況を変えられない経験を繰り返した人が、やがて、実際には変えられる場面に直面しても、行動そのものを諦めてしまうようになる、という心理現象のことなのです。
あなたは、これまでのキャリアの中で、完璧な制度設計を組んだにもかかわらず、数年後に傾いていく会社を、何度も見てきたはずですよね。
おそらく、一件や二件ではないはずです。
そのたびに、「自分にできることは、もうなかった」つまり「自分は自分の仕事を完璧にこなした」という結論を、繰り返し、繰り返し、心の中で下してきたのではないでしょうか。
もちろん、このことが良いとか悪いとかは一切評価する立場にはありませんし、そんなことを言うつもりは毛頭ありませんので、誤解されないようにお願いします。
でも、その積み重ねが、いつしか「専門外だから」という言葉の裏側に、静かに、もう一つの意味を重ねていきます。
それは、「専門外だから」ではなく、「専門外だと思わなければ、やっていられないから」という意味です。
これは、あなたの怠慢ではありません。
むしろ、何十件もの現場に、それだけ真剣に向き合ってきたからこそ、辿り着いてしまう、極めて自然な防衛反応であり、極めて自然です。
実は、知り合いのある税理士さんが、こんな話を打ち明けてくれました。
「担当していた製造業の代替わりで、後継者から、夜中にね、こんな電話がかかってきたことがあるんですよ。『社員が言うことを聞いてくれない、どうしたらいいですかねぇ』と。数字の相談なら、いくらでも乗れます。でも、その質問には、何も答えられなかった。というより、どうしてそんなことを私に言ってきたんだろうか?とさえ思ったのですがね。電話を切ったあとに、自分の無力さに、しばらく呆然としたことを覚えているんです」
その税理士さんは、こう続けました。
「それ以来、『経営の悩みは、経営コンサルタントの領域だから』と、自分に言い聞かせるようにしているんです。そう思わないと、正直、やっていけないんですよね、それぞれ専門の領域があるんだから、ある意味割り切りですよ」
この言葉の中に、専門家としての誠実さと、繰り返された無力感の両方が、静かに同居していると、それを聞いた私は思ったことを覚えています。
制度が完璧でも埋まらない、もう一つの層があるという構造
事業承継には、実は、二つの、まったく異なる層が存在します。
一つは、株式、税務、法務という、あなたが日々、精緻に組み上げている、いわゆる「箱」の層です。
そしてもう一つは、先代が40年かけて積み上げてきた、判断の基準そのもの——いわば、会社を動かす「中身」の層です。
| 箱の層 | 中身の層 | |
| 担い手 | 税理士・弁護士・金融機関 | 誰も担っていない |
| 拠り所 | 条文・数値という、明確な正解 | 先代一人ひとりの中にしかない、固有の判断基準 |
税理士である、あなたが専門的に扱ってきたのは、前者です。
そして、あなたが何度も違和感を覚えてきた「なぜか傾いていく会社」の正体は、この後者の層が、誰にも引き継がれないまま、放置されていることにあります。
私はこの、目に見えない中身のことを、「思考資産」と呼んでいます。
そして、この思考資産が言語化されないまま進む事業承継は、どれほど箱の設計が完璧でも、いずれどこかで、機能不全を起こすことを知っています。
そしてこれは、ほぼ100%の確立で行き詰ります。
これは、あなたの仕事の不備では、まったくありません。
むしろ、あなたが完璧に整えてきた箱があったからこそ、その会社は、最低限の形を保てていたとすら言えます。
けれど、箱だけでは、経営という営みは、動き続けられないのも確かなことです。
この二つの層は、担う専門性そのものが、根本的に異なります。
だからこそ、これはあなたが担うべき仕事ではありません。
けれど、その存在に気づいているかどうかで、目の前の後継者に、何を伝えられるかは、大きく変わってくるはずです。
その違和感には、もう名前がついている
「専門外だ」と線を引いてきたその感覚に、実は、すでに構造と、名前がついています。
先代の脳内にしかない暗黙の判断基準を、丁寧に掘り起こし、後継者が使える形に翻訳していく。
そうした専門的な技術と、それを担う専門家が、すでに存在しています。
あなたがこれまで、何十件と見てきた「なぜか傾いていく会社」。
その入口に、次に立ち会うことがあれば、その違和感を、諦めではなく、次の一手として、思い出していただけたらと思います。
ただし、上辺ではなくて、本質にまで切り込む一手を持つ専門家は、たった一人しかいません。
きっと傲慢に聞こえると思います。
ですが、その全貌を知ったら、きっと「なるほど」と、膝を打っていただけると思っています。
日々、忙しく業務を遂行される中で、もしも「あっ、これ!」と思われたら、是非一度ご連絡ください。
あなたの専門外をサポートできます。
💡 さらに詳しく知りたいあなたへ
思考資産という構造について、さらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてお読みください。
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事業承継が、なぜ普通にやれば必ず失敗してしまうのか、その全体構造については、こちらにまとめています。
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親子間の事業承継がなぜうまくいかないのか、その根本的な原因と、思考資産を未来へ残す具体的な方法については、こちらの完全解説ガイドで詳しくお話ししています。
👉 親子間の事業承継がうまくいかない本当の理由──会社は継げても、先代の「思考資産」は継げていない
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それでは、またお会いしましょう。
「思考資産」承継デザイン研究所
霧香ゆうひ(夕燈)


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