親の会社を継ぐの、正直言って「ホントにしんどい」

親の会社を継ぐの、正直言って「ホントにしんどい」

今、社会問題となりつつある「事業承継の難しさ」
中でも、父親の会社を子供が継ぐ「親子間承継」における難しさが深刻化してきています。

親の会社を継ぐというのは、継ぐ前であっても、継いでからであっても、ほんとうに難しいものです。でも、この辛さには、ちゃんと理由があります。

因果の法則から見ても、ここで因子を見極めて対策を打たないと、絶対に良い結果は生まれません。

今日は、この記事で、本質と真理を解き明かしますので、ぜひ一緒に見ていきましょう。


30-Second Summary この記事の要約

私が長い心理臨床の現場で遭遇した後継者たちの叫びを分析してみても。

当然ながら、親の会社を継ぐことに伴う“辛さ”は、たった一つではありません。
継ぐ前の重圧、継いでから1〜3年続く迷走と消耗、それぞれ性質の異なる苦しさが、時期を変えて襲ってきます。
しかも、多くの場合、後継者たちは大抵、孤独です。

この記事では、まずはその全体像を、私の専門である心理学から「トランジション理論」という視点で整理していきます。

人が大きな変化を経験するとき、そこには必ず通る3つの段階があります。
もちろん「会社を継ぐ」ということも、この移行プロセスの一つとして捉え直すことで、なぜこんなにも長く辛いのか、そして、この辛さがいつか終わるものなのかを、地図として見渡せるようにします。

解き明かされた理論からロジカルな目線で見ると、意外に物事を客観視できて、解決策が自ずと見えたりしますので、フラットな気持ちで読み進めてみてください。


親の会社を継ぐのは、正直言ってホントにしんどい。

親父の会社を受け継ぐのは、とんでもなくしんどいですよね。

継ぐ前は継ぐ前で、不安という重圧に押しつぶされそうになる。

継いでからは継いでからで、頑張っても次々に追いかけてくる難しい決断の繰り返しで、延々と苦しい。

しかも厄介なのは、この二つの辛さが、まったく違う顔をしていることです。

継ぐ前の重さを乗り切って、この不安が晴れれば、あとは楽になる、というわけでもなくて。
むしろ、継いでからの方が、新しい種類の苦しさに直面することも、珍しくないんです。

「継ぎたくないよなぁ……」と、夜中に一人でつぶやいたこと。
そして、継いで1年経っても、楽になるどころか、苦しさが増えていく感覚。
「そろそろ新人社長という看板を降ろせよ」という、周囲の視線の変化。

「え?じゃあ、親父の会社を継ぐって、ずーっと苦しさが延々と続くってこと?」
こんなふうに思いますよね。

これ、全部、根っこは繋がっているのです。


「事業承継」という言葉では、この辛さは説明できない

現在、世の中には、「事業承継」というテーマを扱った情報が、溢れるほどたくさんあります。
株式の移転方法、税制の優遇措置、後継者育成のプログラム。
どれも、実務としては大事な話です。

でも、正直なところ、そこに書かれていることのどれも、夜中に「継ぎたくないよなぁ」とつぶやく気持ちには、寄り添ってくれませんよね。

ご存じのように、「事業承継」という言葉は、制度や手続きの話です。
だから、その発信元は、税理士であったり、M&A業者であったり、銀行であったり。

でも、あなたが今抱えているのは、もっと個人的で、もっと感情的な、「継ぐという経験そのものの辛さ」ですから。

残念ながら、これらの記事の中には、その辛さに寄り添うものは一切見当たらないはずです。

ですから、私のこの記事では、あなたの辛さの本質に焦点を当てます。


この辛さには、共通の構造がある

継ぐ前の重さと、継いでからの苦しさ。

ここまで見てきた、一見バラバラに見えるこの二つの辛さは、実は心理学の一つの理論で、綺麗に説明がつきます。

トランジション理論(Transition Theory)と呼ばれるものです。

組織コンサルタントのウィリアム・ブリッジズが1991年に提唱した理論で、人が人生の大きな変化(転職、引退、離婚、昇進など)を経験するとき、必ず3つの段階を通る、というモデルです。

きっととても興味深いものだと思うので見ていきましょう。

1つ目は、「終わり(Ending)」です。
これまでの自分の立場や役割を、手放す段階ですね。

2つ目は、「中立圏(Neutral Zone)」です。
これは、これまでの自分ではなくなったけれど、新しい自分にも、まだなりきれていない、宙ぶらりんな段階です。
混乱して、方向性を見失いやすい時期とされています。

3つ目が、「新しい始まり(New Beginning)」です。
新しい役割やアイデンティティが、ようやく自分の中に定着していく段階です。

勘の鋭い方なら気づいたかもしれません。
面白いのは、この理論では、変化とは「新しい始まり」から始まるのではなく、必ず「終わり」から始まる、とされている点なのです。

つまり、何かを手放すことなしに、新しいものは始まらないよ、ということですね。

「会社を継ぐ」という経験も、まさにこの3段階に沿って進んでいくことにお気づきでしょうか?

これは、単に理論として(知識として)知っているだけの話ではありません。

私は、心理カウンセラーとして14年、キャリアの転換、離婚、介護、退職といった、人生の大きな変化のただ中にいる方々と、数えきれないほど向き合ってきました。

もちろんですが、業種も、年齢も、状況もまったく違うのに、こうした「移行期」にいる人が見せる混乱の仕方は、驚くほど似ています。

終わりを受け入れきれず、かといって新しい自分にもなりきれず、宙ぶらりんのまま、焦りや無力感を繰り返す人たちをたくさん見てきました。

二代目が継いでから見せる迷走も、実はこれとまったく同じパターンだと言えます。
経営という文脈が特殊に見えるだけで、その内側で起きている心理的なプロセスは、他のどんな大きな移行とも、地続きなんですよね。

こう言ったことを、知識として知っているのと、実務として心理臨床の現場で見続けてきたからこそ、問題視している私の知見とでは、その差は計り知れないと思っています。


継ぐ前:見えない「終わり」への不安(Ending)

お伝えしたように、継ぐ前の重さの正体は、実はこの「終わり」の段階にあります。

継ぐということは、それまでの自分――会社を継がない自分、自由な進路を選べる自分――を、一つ手放すことでもあります。

まだ何も始まっていないのに、何かを終わらせなければならない。
この段階は、まだ具体的な形になっていない不安として、心の中に居座り続けます。

昼間は「継いだらDXで会社を変えてやるんだ!」と意気込んで前向きな計画を立てているのに、夜になると「はぁ、ホントは継ぎたくないよなぁ」と本音がこぼれる。

これは、あなたの意志が弱いからではありません。
むしろ、この時期に自然に起きる、二つの力のせめぎ合いです。

この「終わり」の段階の内側で何が起きているのか、より詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてどうぞ。

「継ぎたくないよなぁ……」その夜の声の方が、いつも勝つ。


継いでから1〜3年:出口の見えない「中立圏」(Neutral Zone)

そして、いよいよ継ぐと、次に待っているのが、トランジション理論でいう「中立圏」です。

これが、実は一番長く、一番しんどい段階かもしれません。

先代のようにも振る舞えず、かといって、自分なりのやり方も、まだ確立できていない。
学んできたはずの知識(MBA、他社での経験)は、家業の現場では、思うように機能しない。何をしていいか分からない、迷走の時間です。

さらに厄介なのは、時間が経てば経つほど、この迷走が軽くなるどころか、負荷として蓄積していくことです。
継ぐ前の重さは、まだ「これから起きること」への不安でした。

でも、継いでからの重さは、毎日、実際に起きている出来事の連続です。
慣れれば楽になる、という前提そのものが、そもそも成り立っていません。

そしてこの時期には、もう一つ、見えにくい変化が重なります。

就任1年目まで、二代目を支えていたのは、実は「先代の顔」への信用だったという事実。
それが段々と薄れていくのと同時に、周囲の評価基準も、「新人だから」という猶予から、本人の実績そのものへの厳しい視線に切り替わっていきます。

二つの土台が、同時に消えていくわけです。
これはめちゃくちゃキツいことかもしれません。

この中立圏で起きていることを、それぞれ違う角度から掘り下げた記事があります。

会社を継いだのに、何をすればいいかわからない。 継いで1年、なぜ楽になるどころか、苦しさが増えていくのか。 「そろそろ、新人社長という看板を降ろせよ」——そんな視線に気づいた日。


なぜ、この中立圏はこんなに長く感じるのか

トランジション理論では、中立圏は「何もない空白の時間」ではなく、「次の始まりのために、実は必要な準備期間」だとされていると言いましたね。

でも、この期間が長引けば長引くほど、人は不安に耐えられなくなり、次の3つのどれかに陥りやすいと言われています。

一つは、早すぎる結論に飛びつくこと。
焦って大きな成果を出そうとし、無理な新規開拓に全振りしてしまうような判断です。

もう一つは、過去への逃避。
「先代のやり方が、やっぱり正しかったんじゃないか」と、変化そのものをなかったことにしようとする動きです。

そしてもう一つは、思考停止。
宙ぶらりんの状態に耐えきれず、考えることをやめてしまうことです。

多くの二代目が、この中立圏で長く苦しむのは、根性が足りないからでも、能力が低いからでもありません。

中立圏を抜けるための地図を、誰も渡してくれていないからなのです。

ここまで、ロジカルに頭の中が整理できたと思います。
「だったら、どうすればいいんだ?」
この話に進みましょう。


「新しい始まり」に、ちゃんと辿り着くために

このトランジション理論において、中立圏を抜けて「新しい始まり」に至るために必要なのは、力技でも、我慢でもありません。

ただただ、中立圏の中で、少しずつ自分なりの判断の軸を育てていくことです。

そして、後継者にとって、その判断の軸を育てる一番の近道は、実は真新しい理論を学ぶことなどではなく、すでに一度、この移行を成し遂げた人、つまり先代の頭の中を、覗かせてもらうことなのです。

もうおわかりのように、当然ですが先代にも、間違いなく、同じような「終わり」があり、「中立圏」がありました。

今の経営スタイルは、先代が、40年かけてゼロから作り上げてきたものですから。
その過程には、無数の判断と、無数の分岐があったはずです。

ただ、それは言葉にも、資料にも、一切残されていません。

ここでもう一度誤解のないようにお伝えしておきます。
継ぐ前の重さも、継いでからの迷走も、あなただけが特別に弱いから起きているのではありません。

これは誰もが通る、移行のプロセスなのです。
ただ、先代の頭の中にある判断の地図と羅針盤を、あらかじめ持っているかどうかで、この中立圏の長さと辛さは、大きく変わってきます。

もしもあなたが、その地図の作り方(手に入れる方法)――先代の判断の理由を、構造として引き出す方法――に関心を持たれたならば、ぜひ以下のHUB記事もあわせてお読みください。

【HUB記事】 親子間の事業承継がうまくいかない本当の理由──会社は継げても、先代の「思考資産」は継げていない

親子間の事業承継がうまくいかない本当の理由──会社は継げても、先代の「思考資産」は継げていない
親子間の事業承継がうまくいかない本当の理由日本では毎年、多くの中小企業が黒字でありながら廃業を余儀なくされています。その背景には、会社という「箱」は継げても、先代の脳内にある本当の強み――「思考資産」が継承されていないという、事業承継の“中…

おわりに

ぜひ、私のプロフィールも見て頂きたいのですが。
私は過去に、数万人の従業員を擁する会社のHRの現場、さらにまた心理カウンセラーとしての心理臨床の現場で、多くの実体験を積んで、現在ここにいます。

このことは自慢ではなく、そこでしか見ることのできない、多くの「苦悩」と向き合ってきたということです。

「話として聞いた」ことと「実際に苦悩の末に逃げ場のない立場にまで追い込まれた人の声を直接聞いた」のとでは、天と地ほど、説得力が違うはずです。

これからも、この経験をもとに、可能な限り、読んでくださる方に寄り添える記事を書いていこうと思っていますので、ぜひ楽しみにしていてください。

それでは、また、お会いしましょう。

「思考資産」承継デザイン研究所

霧香ゆうひ(夕燈)


著者プロフィール
kirika-yuhi

著者:詳細プロフィール

「思考資産」承継デザイン研究所 
所長: 霧香 ゆうひ(夕燈) デコーダー/心理カウンセラー/作家

1961年生まれ。広島を拠点に全国の事業承継現場で、経営者と後継者の「魂の同期」を支援する専門家。
30年のHRキャリアで組織の力学を、14年の心理カウンセラー経験で人間の深層心理を、11冊の著書を通じて言葉の精錬技術を磨いてきました。

この三つが交わる場所に、私の専門領域があります。

私が提唱する「思考資産」とは、経営者の脳内に点在する「記憶・判断・哲学」をデコード(解読)し、次世代が迷わず使える「経営深層論理(DDL)」として構造化したものです。

法的・税務的な手続き(箱の整理)は専門家に委ね、私はその「中身(魂)」を救い出すことに全力を注ぎます。

一人の経営者の暗黙知を救うことは、組織を救い、文明が積み上げてきた知恵の総量を守ることに繋がる——これが、私がこの仕事を続ける理由です。

3万人超の事業承継・組織再生の現場に伴走してきた、日本唯一のデコーダー。

霧香ゆうひ

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二代目の苦悩

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