「親の会社を継いで1年」どんどん苦しくなるのはなぜ?

親の会社を継いで1年、どんどん苦しくなるのはなぜ?

親父の会社を継いで1年、そろそろ慣れて楽になるかと思いきや、それどころか、予想もしない苦しさが溢れるように増えてくる。
これはいったいどういうことなんだろうか?

「慣れれば楽になる」というのは、実は誰も保証してくれていません。
社長になった当初の意気込みと理想とは、どんどん乖離して自分を見失っていく。

そんな二代目の、なんと多いことでしょうか?

今日は、事業承継後の苦悩について掘り下げてみましょう。


30-Second Summary この記事の要約

「継いで1年も経てば、そろそろ慣れてくるはず」。
周囲も、本人自身も、なんとなくそう思っています。
だけど実際には、1年経っても苦しさが消えるどころか、むしろ新しい種類の苦悩が積み重なっていく後継者=二代目は少なくありません。

この記事では、「時間が経てば楽になる」という思い込みがなぜ外れるのかを、心理学の「アロスタティック負荷」という視点から整理してみます。
そうすることで、慣れとは正反対の、静かな蓄積のメカニズムについてお伝えします。
原理と構造がわかれば確実な対策を打つこともできます。


継いで1年、なぜ楽になるどころか、苦しさが増えていくのか。

継ぐ前、夜になると、決まって「継ぎたくないよなぁ……」とつぶやいていた男がいました。

そんな彼ですが、昼間は、DXで会社を変えてやるという計画に燃えていました。
でも夜、一人になると、その声はどこかへ消えて、代わりに重さだけが残っていた。

それから、何とか1年が経ちました。

継ぐ前は、「継いでしまえば、そして慣れれば少しは楽になるはずだ」と思っていたんですよね。
覚悟さえ決めれば、あとは前に進むだけだと。不安は、時間が解決してくれると。

でも、実際はどうだったでしょうか?

1年経った今、あの頃より、楽になった実感があるでしょうか?
それとも、あの頃には想像もしていなかった重さが、新たに積み重なっていないでしょうか。

実はこれ、「ある一人の物語」ではなくて、私が出会ってきた多くの「親の会社を継いだ後継者」が陥る、とんでもなくメジャーな罠なのです。

何でもそうですが、普通は、1年もやれば、そろそろ慣れてくるはずです。
なぜこんなことになるのか?
そのメカニズムを解き明かして、対策までを考察しましょう。


「慣れれば楽になる」という、誰も保証していなかった前提

「1年もあれば、慣れるでしょう」

継ぐ前、周囲からそう言われたかもしれません。
自分自身も、なんとなくそう思い込んでいたかもしれません。

でも、よく考えてみると、これは誰かが保証してくれた話ではないんですよね。
新しい仕事に慣れる、新しい環境に慣れる、というのは、たしかによくある話です。

でも、後継者が置かれている状況は、単なる「新しい仕事」とは、少し違います。

継ぐ前の重さは、まだ起きていないことへの不安でした。
ところが、継いだ後の重さは、毎日、実際に起きている出来事の連続なのです。

社員との関係。銀行との面談。
先代との距離感。
自分の判断が正しかったのかという迷い。

これらは、1年経ったからといって、自然に減っていくものではありません。
むしろ、日々新しく発生し続けるものです。

だから、「慣れれば楽になる」という前提そのものが、実はそもそも成り立っていなかった可能性があるんです。

人間は、同じことを毎日繰り返すことで慣れてきます。
しかし、毎日起こることは、イレギュラーの連続と表現しても良いものです。

ですから、「慣れる」という概念そのものが、経営者には当てはまらないものだったのです。

きっと今、これを読んでいるあなたは「うんうん、確かにそうだ!」って、大きく深く頷いていると思います。


むしろ、新しい苦悩まで増えている理由

実は、経営者にとって、もっと厄介なのは、苦しさが「同じものが続いている」だけではなく、「種類が増えている」ということです。

継ぐ前に想像していた苦悩は、たいてい一つか二つでしたよね。
うまくやれるだろうか。
周囲に認めてもらえるだろうか。

でも、実際に1年やってみると、想像もしていなかった苦悩が、次々と顔を出してきます。
この次々が、「毎日」だから、処理の限界を超えるのも無理はありません。

思っていたより、社員との距離が縮まらない。
思っていたより、銀行の評価は簡単には変わらない。
思っていたより、先代のやり方から抜け出すのは難しい。
思っていたより、自分の判断に自信が持てない。

確かに一つひとつは、それほど大きな出来事ではないかもしれません。
でも、これが毎日、少しずつ積み重なっていく。
気づけば、継ぐ前には存在しなかった重さが、何層にも積み上がっている。

これが、「楽になるどころか、増えていく」の正体です。

一般的に経営者は、一日にどれくらいの処理をして、どれほどの決断をするのでしょうか?
もちろん、数えきれないとしか言いようのない数ですよね?

その決断や判断を一日先延ばしにするだけで、とんでもない数の積み上げになります。

それらは、わずか1年という短い期間で、あなたの精神を蝕むほどの「苦悩」になっていくわけです。


なぜ、時間が経っても、負荷は消えずに蓄積するのか

実はこの現象、心理学と生理学の境界にある分野で、すでに説明がついています。
(私の専門である、心理学からアプローチしてみます)

それは「アロスタティック負荷(Allostatic Load)」と呼ばれる概念です。
心理学者ブルース・マキューアンらが提唱したもので、人は、環境の変化やストレスに対して、体や心のバランスを保とうと、常に微調整を繰り返しています。

この調整のしくみ自体は、本来、人を守るためのものですので自然なことです。

でも、ストレスの原因が消えないまま、この微調整を延々と続けていると、その調整システム自体が摩耗していきます。
そして、摩耗が積み重なった状態こそが、アロスタティック負荷と呼ばれるものです。

ここで最も重要なのは、この負荷は「慣れ」によっては軽くならない、という点です。

一度きりの強いストレスであれば、時間とともに回復することもあります。
でも、終わりの見えない、慢性的なストレスの場合、時間が経てば経つほど、むしろ負荷は蓄積していくというわけです。

これは、ちょっとわかりやすくたとえるなら、ずっと右手だけで重い荷物を持ち続けているようなものなのです。
最初のうちは、腕の筋力で何とか持ちこたえられるはずです。

でも、休むことなく持ち続ければ、時間が経つほど、腕は疲労し、やがて震えはじめ、最後には持っていられなくなります。
当然ですが、「1時間も持てば、慣れて楽になる」ということは、絶対に起こらないんですよね。

これは、むしろ逆です。

実は、後継者が置かれている状況も、これに近いものがあります。

継いだ日から、毎日、判断と対応を求められ続ける。
休みなく、微調整を強いられ続ける。
しかも、その負荷の原因(社員との関係、銀行との関係、先代との関係)は、1年経っても、根本的には解消されていません。

だから、時間が経てば経つほど、負荷はむしろ積み上がっていくわけです。

これは、後継者の適応力が低いからではありません。
人間の心と体の、ごく自然な仕組みが、そのまま表れているだけなんです。

この構造を知らずに放置したとしても、或いは抗ったとしても、残念ながら改善することはありません。

さて、ではどうしましょうか?


継ぐ前と、継いだ後の負荷の違い

継ぐ前と継いだ後では、負荷の性質そのものが変わります。
整理すると、こうなります。

観点継ぐ前の重さ継いで1年の重さ
負荷の種類未来への不安(まだ起きていないこと)現実の連続(毎日、実際に起きること)
時間による変化覚悟を決めれば、多少は軽くなりうる慣れではなく、蓄積として増えていく
負荷の数1〜2個の大きな不安に集約されやすい小さな負荷が、次々と積み重なっていく
回復の機会「まだ先の話」として、心理的な距離が取れる毎日向き合わざるを得ず、距離が取れない

継ぐ前は、まだ「距離のある不安」として扱えました。
でも、継いだ後は、その不安が現実に姿を変えて、毎日、目の前に現れ続けます。

しかも、その一つひとつに休みなく対応しなければならない。これでは、負荷が蓄積していくのも当然です。


この蓄積は、覚悟が足りないからではない

ここまで読んで、こう思うかもしれません。
もしかして自分の覚悟が、まだ足りていないのだろうかと。

でも、そうではありません。

アロスタティック負荷の考え方に立てば、これは覚悟の問題ではなく、負荷の原因そのものが、いまだに解消されていないという、構造上の問題です。

継ぐ前、あなたは夜、「継ぎたくないよなぁ」とつぶやいていましたよね。
それは、義務感の重さを、正直に感じ取っていたサインでした。

継いだ後も、その義務感の正体――「自分が本当に納得して、この道を選べているのか」という問い――は、実はまだ、解消されないまま残っている可能性があります。

継ぐという行為だけを終えて、その行為の意味づけを終えないまま働き続けると、負荷を生み出している根っこの部分は、そのまま残り続けます。
だからこそ、時間が経っても、楽にはならないんです。

そして、この負荷を根本から軽くする方法は、無理にポジティブになることでも、我慢強く耐え続けることでもありません。
負荷の発生源そのものに、目を向ける必要があります。

ここは少しテクニカルな話になります。


負荷の発生源は、実はもっと具体的な場所にある

後継者が日々感じている重さの多くは、実は「経営そのものの難しさ」ではありません。

先代がどうやってこの重さと折り合いをつけてきたのか、分からないまま、毎回ゼロから判断している、その負荷です。

前回の記事(※1)で触れたように、先代の判断には、実は40年分の分岐のストックがあります。
後継者は、そのストックを持たないまま、同じ速さで判断することを、自分にも周囲にも求めてしまっています。

これでは、毎回、初めての状況に、丸腰で向き合っているのと同じです。
丸腰で向き合い続ければ、負荷が蓄積していくのは当然なのです。

つまり、この蓄積を軽くする鍵は、根性でも、時間による慣れでもなく、先代の判断の構造を、少しずつでも自分の中に取り込んでいくことにあります。

丸腰の状態から、少しでも武器を持った状態に変わっていくこと。
それが、負荷を減らす、唯一の現実的な道筋です。

と言いますか、それ以外にはないと断言できます。

(※1):「親父の会社、継ぎたくない」深夜の呟き


実は、ここからが面白いところです

さて、ここまでは、継いで1年の二代目(後継者)の話でした。

でも、思い出してみてください。
この二代目は、継ぐ前、夜になると「継ぎたくないよなぁ」とつぶやいていた、あの人物です。

昼は前向きな計画に燃え、夜は本音に押しつぶされる。
その葛藤を抱えたまま、それでも継ぐことを選びました。

そして1年後、その葛藤は消えるどころか、形を変えて、新しい重さとして積み重なっています。

ここで一つ、大事な問いが浮かびます。

もし、継ぐ前のあの夜に、先代自身の判断の構造――なぜあの取引先とはこの条件なのか、なぜあの社員には強く言えないのか、外れた時にどう立て直してきたのか――を、少しでも知ることができていたら、この1年は違っていたのではないか、という問いです。

どうですか?
要するに、事前に知っていれば、どんな敵が来ても微動だにしない武装が出来ている状態で、うろたえることはない!
ということです。

丸腰のまま1年戦い続けた負荷と、先代の分岐構造を少しでも携えて1年を過ごした場合の負荷は、まったく違うものになります。
きっとその差は「天と地」ほどであったはずです。

これは、気合いや根性の話ではありません。
持っている武器の量の話です。

そして、その武器こそが、経営深層論理(DDL)として構造化される、先代の思考資産です。

継ぐ前の夜も、継いだ後の1年も、実は同じ一つの問題――先代の思考が、まだ言葉にも構造にもなっていない――に、形を変えてずっと向き合わされているだけなのかもしれません。

あなたが今、継ぐ前でも、1年目でもまったく問題ではありません。
あなたが経営者であり続ける限り、永遠に決断と判断の波は襲い掛かります。

これからも、モヤモヤとした末の判断に不安を抱きながら、「苦悩」を積み上げますか?
先代の脳内にしかない「思考資産」を継ぐ。
これだけで、あなたの経営者人生は、必ず好転します!
いいですか?絶対にです。

もしもあなたが今、会社を継いで1年、或いは数年、いくら経ってもぜんぜん慣れない。
苦悩が募るばかりだと嘆きながら、この記事を読まれているのなら、どうか安心してください。

それは、ほんとうに多くの二代目が陥る罠であり、私はそれを解き明かし、対策を整えています。


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「思考資産」承継デザイン研究所
霧香ゆうひ(夕燈)

著者プロフィール
kirika-yuhi

著者:詳細プロフィール

「思考資産」承継デザイン研究所 
所長: 霧香 ゆうひ(夕燈) デコーダー/心理カウンセラー/作家

1961年生まれ。広島を拠点に全国の事業承継現場で、経営者と後継者の「魂の同期」を支援する専門家。
30年のHRキャリアで組織の力学を、14年の心理カウンセラー経験で人間の深層心理を、11冊の著書を通じて言葉の精錬技術を磨いてきました。

この三つが交わる場所に、私の専門領域があります。

私が提唱する「思考資産」とは、経営者の脳内に点在する「記憶・判断・哲学」をデコード(解読)し、次世代が迷わず使える「経営深層論理(DDL)」として構造化したものです。

法的・税務的な手続き(箱の整理)は専門家に委ね、私はその「中身(魂)」を救い出すことに全力を注ぎます。

一人の経営者の暗黙知を救うことは、組織を救い、文明が積み上げてきた知恵の総量を守ることに繋がる——これが、私がこの仕事を続ける理由です。

3万人超の事業承継・組織再生の現場に伴走してきた、日本唯一のデコーダー。

霧香ゆうひ

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二代目の苦悩

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