二代目に融資するとき、銀行員は何を見ているのか

ステークホルダーのジレンマ

二代目に融資するとき、銀行員は何を見ているのか

融資担当の心の声「ほんとうにこの人物に貸して大丈夫なのだろうか?」

会社の数字よりも、後継者が「自分の頭で会社を動かせるか?」を銀行は見ている。


30-Second Summary

二代目への融資では、銀行員は会社の業績だけでなく、後継者本人の判断力や説明力も見ています。
先代の信用で成り立っていた会社が、二代目のもとで本当に前に進むのか。
その見極めは、数字の裏にある経営姿勢に表れます。

本記事では、融資という仕事そのものが抱える構造的なジレンマ、銀行員が安心して稟議を書ける後継者の条件、そしてその背景にある「思考資産」の継承という視点を整理します。


貸すのが仕事。でも、貸し倒れは、いちばん怖い。

まず、ひとつ確認しておきたいことがあります。

銀行員にとって、融資は「仕事」です。
もっと言えば、融資こそが銀行の収益の柱です。
お金を貸して、利息を得る。
貸さなければ、銀行は儲かりません。

支店には、その期に実行すべき融資の目標があり、担当者にはノルマに近い数字が課されています。

つまり、融資担当者は本来、「貸したい」人たちなのです。
目の前の会社に、できることなら前向きな稟議書を書きたい。

もちろんそれが、彼らの成果になり、評価になるからです。
繰り返しますが、それが仕事ですから当然のことです。

ところが、同時に、彼らのキャリアには、もうひとつの数字がついて回ります。
それが、ご存じの「貸し倒れ」です。

一度貸したお金が返ってこない。
これは、銀行員にとって単なる数字上の損失ではありません。
「なぜあの融資を通したのか?」と、後から必ず問われる忌まわしい出来事なのです。
さらに、当然ながら稟議書には、担当者の名前が残ります。

上司の決裁印が押されたあとも、「言い出しっぺ」が誰だったかは、支店の記憶に長く残ります。
貸し倒れは、会社を潰すだけでなく、担当者自身の評価も静かに傷つけていくのです。
こう言ったことを考えてしまうのも、人間だから当然のことです。

つまり、融資担当者は、相反する二つの力に、常に引っ張られているわけです。

「貸したい」という成果へのプレッシャーと、「貸してはいけないかもしれない」という恐れ
このアクセルとブレーキを、同時に踏みながら、彼らは面談の椅子に座っています。

おそらく、これが融資担当にとっての最大のジレンマですよね。
だから、彼らの眉間には皺が寄るのも当然理解できます。


だからこそ、彼らの目は、厳しくなる。

この構造を知ると、融資担当者の「厳しさ」の正体が、少し違って見えてきます。

彼らは、後継者を疑いたくて質問しているわけではありません。
むしろ逆です。
「貸せる理由」を、なんとか見つけたいのです。

ですが、「貸したい」という気持ちに素直に流されて、あとで貸し倒れが起きれば、その責任は自分に返ってくるわけですから。
だからこそ、面談の場で、無意識に、こう自分に問いかけています。

「今、自分は、この人物の何を根拠に、貸そうとしているのか?」
「これは、この人自身の力への評価か。それとも、先代への評価を、なんとなく引き継いでいるだけではないか?」

決算書の数字が良好であればあるほど、この問いは強くなります。
なぜなら、数字が良いときほど、「先代の遺産で、たまたま持っているだけではないか」という可能性を、慎重に確かめる必要があるからです。

数字の良さに気を緩めて、後継者本人を見誤ったまま貸し倒れが起きたとき、いちばん重い責任を負うのは、他でもない、目の前で稟議を書いた自分自身なのですから。


融資担当の、本当の心の声

決算書を前に、融資担当者は静かに考えています。

会社の数字は悪くない。売上も利益も、安定した推移を描いている。それなのに、ペンを持つ手が、ふと止まる瞬間があります。

実は以前、こんな話を聞いたことがありました。
ある二代目社長との面談で、業績は文句なしに良好でした。

ところが、質問を重ねるたびに、返ってくる言葉のほとんどに「父が」という主語がついてくる。
数字は先代の代からの延長線上にあり、本人の言葉からは、まだ経営の実感が伝わってこなかった。

結局その担当者は、稟議書を書く手を、もう少しだけ止めることにしたそうです。

この後継者は、本当に「社長」として立てるのか。
先代の代わりとして、ただそこに座っているだけなのか。
それとも、自分の頭で、この会社を動かしていけるのか。
そこが見えないと、正直、安心して背中を押しにくいんです。

もっと短く言えば、こういうことです。

この人に貸して、会社は前に進むのか?
それとも、先代の信用を食い潰して、終わるのか?

もちろん口には出せません。
稟議書にも、そんな言葉は書きません(そんなことを書く欄もありません)。

ですが、面談のたびに、融資担当者の頭の中では、こうした問いが静かに巡っています。
数字の上では優良先でも、融資担当者が最終的に判断材料にするのは、目の前の後継者の受け答えそのものだったりします。


銀行員が見ている5つのサイン

派手な経歴や、力強いプレゼンは、実はそれほど響きません。

むしろ、そういう場面ほど、融資担当者は少し身構えます。
「言葉が上滑りしていないか」を、無意識に確かめようとするからです。

融資担当者が本当に安心するのは、もっと地味な部分です。

  • 自社の弱みを、隠さず把握している
  • 先代任せではなく、自分の言葉で話せる
  • 資金繰りや返済の筋道を、自分で説明できる
  • 苦しい局面での対応を、具体的に想像できている
  • 取引先や社員との関係を、客観的に見られている

銀行員は、会社の未来を見ているようでいて、実は後継者がその未来を本当に支えられる人物かどうかを見ているんです。

同じ質問に対しても、答え方一つで、融資担当者の受け取り方は大きく変わります。

融資担当者からの問い経営の主語が先代のままの答え方経営の主語が後継者にある答え方
業績が落ちたら、どうしますか先代に相談しますまずこのコストを見直し、この取引先には早めに事情を説明します
御社の弱みは何ですか特にないと思いますこの分野の営業力が弱く、今こう補おうとしています
なぜこの方針にしたのですか先代がそう言っていたので数字と現場を見て、今はこれが最善だと判断しました

左側の答え方が悪いわけではありません。
ただ、融資担当者の耳には、経営の重心がどちらにあるかが、はっきりと伝わってしまうのです。


心理学的に見ると:誰が、この経営の「舵」を握っているか

この5つのサインには、心理学的な共通点があります。
それは、統制の所在(Locus of Control)という考え方です。

心理学者ジュリアン・ロッターが1966年に提唱した概念で、人が物事の結果を「自分の行動や判断によって決まる」と捉えるか(内的統制)、それとも「運や、自分以外の誰かによって決まる」と捉えるか(外的統制)という、認知の傾向を指します。

つまり内的統制の傾向が強い人は、うまくいかない状況でも「自分に何ができるか」を考えます。
逆に外的統制の傾向が強い人は、「先代がこう言ったから」「業界がそうだから」と、判断の主語が自分以外になりがちです。

ロッターの研究以降、この傾向は、ビジネスにおける意思決定の質や、逆境への対処のしかたにも影響することが、数多くの研究で示されてきました。

融資担当者が見ている5つのサインは、まさにこの内的統制のサインなんですね。

自社の弱みを把握している、自分の言葉で話せる、苦しい局面を具体的に想像できている。
これらはすべて、「この経営の舵を、自分が握っている」という感覚があるかどうかの表れです。

逆に、質問のたびに「父に聞いてみないと」「先代のやり方を踏襲しています」という答えが返ってくると、融資担当者の頭の中では、静かに警戒信号が灯ります。
それは、経営の舵が、まだこの人の手に渡っていないというサインだからです。

もちろん、先代に相談すること自体が悪いわけではありません。
問題は、相談した先にある「最終的な判断は、自分が下している」という感覚があるかどうかです。

相談は材料集めであって、判断の放棄ではない。
この違いを、融資担当者は面談の短いやり取りの中から、驚くほど正確に感じ取っています。


数字の裏にあるもの:実は「思考資産」を継いでいるか

ここまでの話を、もう一段深く見てみます。

融資担当者が無意識に確かめているのは、実は「経営深層論理(DDL)」でいう3つの層のうち、いちばん深い層なのだと、私は考えています。

【生存論理】(会社が潰れず、食べていけるか)は、決算書を見ればある程度わかります。【信用論理】(取引先や社員から、経営者として認められているか)も、面談での受け答えから推測できます。
ですが、融資担当者が本当に見極めたいのは、その奥にある【存在論理】、つまり「この経営が、後継者自身の判断の上に成り立っているか」なんです。

先代の信用だけで会社が回っている状態というのは、生存論理と信用論理が、実は後継者本人ではなく、先代という存在に紐づいたままの状態です。

融資担当者は、その紐が、少しずつでも後継者本人に付け替わっているかどうかを、面談のやり取りの端々から読み取ろうとしています。

「自分の言葉で話せる」というサインの正体は、単なる話術ではなく、先代の暗黙知が、後継者自身の中で、使える判断基準として翻訳され始めているかどうか、その証拠なんです。

つまり、融資担当者を安心させる材料は、突き詰めれば、後継者が「思考資産」をどれだけ自分のものにできているか、という一点に集約されていきます。

数字という結果の裏側に、後継者自身の判断という土台がどれだけ育っているか。融資担当者は、無自覚のうちに、その土台の厚みを測っているのです。


もし、それを「面談の印象」ではなく、「書面」で示せたら

ここで、少し立場を変えて考えてみます。

融資担当者は、面談で得た手応えを、そのまま稟議書には書けません。
「後継者の受け答えに、経営者としての実感があった」という一文は、稟議書の中では、どうしても弱い根拠にしかなりません。

上司や本部の審査担当者は、その面談の場にいなかったからです。

伝聞では、説得力を持たない。
融資担当者は、自分が感じ取った「この人になら貸せる」という手応えを、社内で説明できる形に翻訳する作業に、実は毎回、頭を悩ませています。

だとすれば、後継者の側から、その翻訳の手間そのものを、あらかじめ引き受けてあげることはできないでしょうか。

たとえば、先代の判断の理由を聞き取り、整理した記録。過去の苦しい局面で、先代が何を根拠にどう判断したか、そしてその判断基準を、後継者自身がどう受け継ぎ、どう自分の言葉に翻訳し直したか。

それを一冊の資料としてまとめておく。いわば、「思考資産の継承レポート」です。

これは、事業計画書とは似て非なるものです。
事業計画書が語るのは「これから何をするか」です。
継承レポートが語るのは、「なぜそう判断できるのか、その判断基準はどこから来ているのか」という、もっと手前の土台の部分です。

融資担当者が面談で必死に探ろうとしている「経営の主語は誰か」という問いに、あらかじめ答えを用意しておくようなものです。

こうした資料があれば、融資担当者は、面談での印象だけに頼らずに済みます。

「この後継者は、先代の判断基準をこのように言語化し、自分のものにしている」と、稟議書の中で、具体的に、そして客観的に書くことができる。
それは、融資担当者にとって、社内を説得するための、何よりの後ろ盾になります。

貸したいのに貸せない、というジレンマを抱えた融資担当者に、貸すための根拠を、後継者自身が差し出す。

これは、後継者にとっても、融資担当者にとっても、双方にとって助けになる準備だと思います。


後継者にできること:見えないものを、見える形にする

とはいえ、「思考資産を継いでいます」と口で言うだけでは、融資担当者には伝わりません。
大切なのは、それを、面談の場で、そして書面の上で示せる形にしておくことです。

先代の判断の理由を、日頃から言葉として書き残しておく。
先代との対話を重ねて、判断のパターンを自分なりに整理しておく。
苦しい局面での先代の対応を、記録として持っておく。

こうした積み重ねが、面談での「自分の言葉」に厚みを持たせ、いざというときには、稟議書を後押しする一枚の資料にもなります。

これは、特別な準備というより、日々の小さな積み重ねです。
先代に「なぜそう判断したのか」を一つ聞いてメモしておく。
それだけでも、次に融資担当者から同じような質問をされたとき、答え方はまったく変わってきます。

数字は、先代が築いたものかもしれません。
ですが、その数字の裏にある判断の理由を、自分の言葉で語れるようになったとき、そしてそれを一冊の記録として差し出せたとき、融資担当者の目には、この人になら貸せる、という確かな手応えが生まれます。

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ここまで読んで下さった方に。

もしも、もっと深く知りたい、或いは全体像を知りたいと思われた方は、ぜひ以下のHUB記事をお読みください。

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著者プロフィール
kirika-yuhi

著者:詳細プロフィール

「思考資産」承継デザイン研究所 
所長: 霧香 ゆうひ(夕燈) デコーダー/心理カウンセラー/作家

1961年生まれ。広島を拠点に全国の事業承継現場で、経営者と後継者の「魂の同期」を支援する専門家。
30年のHRキャリアで組織の力学を、14年の心理カウンセラー経験で人間の深層心理を、11冊の著書を通じて言葉の精錬技術を磨いてきました。

この三つが交わる場所に、私の専門領域があります。

私が提唱する「思考資産」とは、経営者の脳内に点在する「記憶・判断・哲学」をデコード(解読)し、次世代が迷わず使える「経営深層論理(DDL)」として構造化したものです。

法的・税務的な手続き(箱の整理)は専門家に委ね、私はその「中身(魂)」を救い出すことに全力を注ぎます。

一人の経営者の暗黙知を救うことは、組織を救い、文明が積み上げてきた知恵の総量を守ることに繋がる——これが、私がこの仕事を続ける理由です。

3万人超の事業承継・組織再生の現場に伴走してきた、日本唯一のデコーダー。

霧香ゆうひ

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