二代目社長の限界…なぜ継いで1年で会社経営が傾くのか?

事業承継の『なぜ?』

二代目社長の限界…なぜ継いで1年で会社経営が傾くのか?

40年の経験 vs MBAの理論。親子間事業承継のすれ違いを解消する「承継の翻訳」の正体とは?

おそらく多くの後継者がこのような経緯をたどって父親の後を継いで、経営者になります。

「ワシも年だし、そろそろお前、社長をやってみるか?」

父親である先代経営者からそう言われて、意気込んで会社を継いで1年、がむしゃらに走ってきましたが。

最初、継いだ直後はすこぶる順調で、快い周りの協力もあって、先代の経営を背中から学んだ甲斐があったと、かなり自信満々だったあなたですが。

会社を継いで1年が経ったころから、どうも思うようにいかないことが増え始めて。
最近では、事あるごとにこんな言葉が頭をかすめるようになっていませんか?

「どうやってもうまくいかないのはなぜなんだろうか?」

決算を締めるたびに、頭の中で同じ問いが繰り返されます。
数字は悪くない。
むしろ前年より良い月もある。
それなのに、手応えだけがどこにも見つからない。

「ほんとうにどうしたんだ?あんなに意気揚々と船出したはずなのに・・・」


1・会社を継いで1〜3年後に「もう嫌だ」と後継者が絶望する理由

多くの後継者が、会社を継いで1年〜3年経った頃にこう呟きます。

「もう、いい加減、嫌になってきたよ」

ほんとうに寝る間も惜しんで、がむしゃらに頑張った。
毎日毎日、夜遅くまで数字を精査した。
もちろん社員一人ひとりにも気を配ったし、感謝もしている。
それでも、うまくいっている実感がだんだん薄れていく。
それに反して、空回りしている感覚だけが積み重なっていく。

どうして、多くの後継者が、いえほとんどの後継者と言ってもいいかもしれません。

最初の半年は、まだ気力で乗り切れます。
慣れない業務、覚えなければならない取引先の顔と名前、社内の力関係。
目の前のことをこなすだけで精一杯で、立ち止まって考える余裕もありません。

だけど1年を過ぎたあたりから、少しずつ景色が変わってきます。

目の前の業務には慣れてきたはずなのに、なぜか疲労感だけが増していく。
何かがずれている、という感覚が拭えなくなっていきます。

特に決裁書類に判子を押すときの手の震えは、明らかに1年まえにはなかったものです。
「これ、ほんとうに推していいのか?」

ある後継者は、私にこんな話をしてくれました。
取引先との価格交渉で、自分なりに考え抜いた条件を提示したところ、あとになって先代から「なんでそんな条件を飲んだんだ」と言われたそうなのです。

ところが、その場ではまったく反論できず、ただ黙って聞いていました。
数字としては大きな失敗ではなかったにもかかわらずです。

なぜか、その一言が何日も何日も頭から離れなかったと言います。

また、別の後継者は、社員の前で先代に意見を否定されて、それ以来、会議の場で発言することが怖くなったと話していました。
もちろん悪気があったわけではないはずです。

ただ、その一瞬のやり取りが、後継者の中に「自分の判断は信用されていない」という感覚を植え付けてしまう。
この小さく微かな違和感が積み重なっていく。
数字には決して現れないけれど、しかし本人の脳内には確実に残る傷です。

実は、こうした小さな出来事は、一つひとつを取り出せば「よくあること」で片づけられてしまいます。
ですが積み重なると、後継者の中で「自分はこの会社で、まだ何者でもない」という感覚に変わっていきます。

肩書きは社長でも、実感が伴わない。
この感覚こそが、多くの後継者が言葉にできずにいる、承継の一番つらい部分でもあるのです。

そんな感覚に襲われたとき、いつも彼らはこう思います。
「一番近くで、ずっと親父の背中を見てきたはずなのに。やっぱり俺じゃダメなのか?」

あなたはそんな風に思うこと、ありませんか?

「あれほど横で見てきたはずなのに、なぜ同じようにできないのか?」
この問いに、多くの後継者が答えを出せないまま、ただただ疲弊していきます。

がむしゃらさだけでは埋まらない何かが、そこにあるのです。
そしてその正体に気づく人はほとんどいません。

だから、後継者が会社を継いで数年、会社は黒字なのに廃業という二文字が脳裏をかすめる。
こんな事態に陥るのです。


2・「40年の達人」である父親と「MBAの素人」である息子の決定的ギャップ

ここで、少し冷静になって考えてみましょう。

客観的に次の対比を見極めてみてください。

父親は、経営経験40年の成功者、いわゆる達人です。
息子は、経営学にMBAで理論だけは学んだ素人です。

実は、本人も語りませんが、経営経験40年のカリスマが見ている景色は、数字やロジックの外側にあります。
取引先の顔色、業界の空気、長年の勘。

それは理論として教えられるものではなく、恐ろしいほどの無数の修羅場をくぐって初めて身につく直感なのです。
先代が交渉の場で見せる「間」の取り方ひとつにも、震えるような何十年分の経験が詰まっています。

値上げを切り出すタイミング、退くべき場面、押すべき場面。
それらはすべて、失敗と成功を数えきれないほど重ねた末に身についた、圧倒的経験値からのみ身に付くものなのです。

一方で、経営学の理論は、整理され、体系化された知識です。
確かに正しい。

しかし中小企業の現場は、理論通りには動きません、絶対に。
泥臭い交渉、義理と人情、数字に出ない人間関係。理論だけを武器に飛び込めば、太刀打ちできない場面がいくつも待っています。

MBAで学んだフレームワークは、大企業や成熟した市場を前提にしていることが多く、地方の中小企業が抱える固有の事情までは説明してくれません。

ですから、そんな二人を並べたところで、客観的に見ても、同列で話が合うわけがないのです。

これが真理です。

しかも、これが他人同士なら、まだ割り切れます。
他人であれば「経験の差だから仕方ない」と受け流せることも、親子だとそうはいきません。

だからこそ余計にこじれます。
「なぜわかってくれないんだ」という後継者の焦りと、
「なぜこんなこともわからないんだ」という先代の苛立ちが、お互いの言葉から冷静さを奪っていきます。

だから、最初はいいのに段々と「あれ?」という場面が積み重なるのです。

しかし、考えてみれば、先代にしてみれば、それは愛情の裏返しかもしれません。
息子には失敗してほしくない、会社を潰してほしくないという思いが、つい強い言葉になって出てしまうのは当然だと思います。

しかし後継者の側には、その愛情は届かず、ただの否定として突き刺さります。

これが厄介なのは、双方とも「相手のためを思って」いる場合がほとんどだという点なのです。
先代は会社を守るために口を出し、後継者は会社を良くしようと新しいやり方を試す。
悪意はどこにもないのに、結果としてぶつかり合う。

この構造に気づかないまま時間が過ぎると、お互いへの信頼だけが、静かにすり減っていきます。

ある製造業の後継者の例ですが、先代が長年続けてきた紙の受発注管理を、システム化しようとしました。
効率化のためには合理的な判断です。

しかし先代は「今まで問題なくやってきたのに、なぜそれをいじるのか?」の一点張りで、なかなか首を縦に振りません。

後継者からすれば、時代に合わせた当然の改善提案ですよね?
ところが先代からすれば、自分が築いてきたやり方を否定されているように感じられます。

どちらの言い分にも理があり、だからこそ簡単には折り合いがつきません。
これは極めて人間の心理的な作用が絡むことですので、ある意味避けようがありません。


3・親子経営に今すぐ必要な「承継の翻訳」という視点

ここまで見てきたように、同列で話しても絶対に噛み合いません。

経営一筋40年の達人の言葉と、MBAだけ学んだ素人の言葉は、同じ日本語でも、意味している前提がまるで違うからです。

ベテランの営業マンと、新卒の営業マンが同じ会議に出ても、話が噛み合わないのと似ています。
ただ事業承継の場合、この差が埋まらないまま、いきなり対等な立場での意思決定を求められるという点が、他の場面とは決定的に違います。

だから、親子と言えど、この両者には「承継の翻訳」が必須なのです。
「ん?承継の翻訳ってなんだ?」
そう思われたかもしれませんが、ここからとても重要な話に移ります。

簡単に言ってしまうと、
達人の直感を、素人が実行できる言葉に翻訳する。
素人の理論を、達人が納得できる現場感覚に翻訳する。

この両方向の翻訳が機能して初めて、承継は前に進むのです。
実はこれまで、あまりにも多くの事業承継の現場で、この重要な観点が抜け落ちていました。

これは、どちらか一方だけが歩み寄る形では、絶対に長続きしません。
先代が我慢して黙るのも、後継者が萎縮して従うだけになるのも、根本的な解決にはならないからです。

ですが、現代において、この「承継の翻訳」の意味を理解して、それを実行できる人は極めて少ないのが現状です。
もしかしたら、いないのかもしれません。

少し考えればわかることですが、税理士は数字の専門家であり、弁護士は契約の専門家です。
どちらも重要な役割ですが、「親子の間で言葉がすれ違っている」という、数字にも契約にもならない領域には、踏み込みません。

もちろん、銀行や経営コンサルタントも、多くは戦略や数値改善が専門で、親子という人間関係の深いところまでは扱いきれないことがほとんどです。

結果として、この承継の翻訳の空白は、多くの場合、誰にも埋められないまま放置されることになります。

翻訳が不足したまま時間だけが過ぎると、何が起きるでしょうか。
当然のように父と子のすれ違いは、社内にも伝染します。
指示系統が揺らぎ、古参社員は誰について行けばいいのかわからなくなる。

「先代の頃はこうでした」という言葉が、悪気なく後継者の判断を遠ざけていく。
会議での発言が減り、報告だけが形式的に続くようになる。
離職が始まり、業績が静かに傾いていく。

多くの場合、この因果関係に気づいたときには、すでに手遅れに近い状態になっています。

先ほどのシステム化の例で言えば、結局その後継者は、先代を説得することを諦め、押し切る形で導入を進めました。
表面上は導入が完了しましたが、先代との関係はそれ以来どこかぎくしゃくしたままだと言うことです。
結果的に、効果の検証すら難しい事態に陥り、当然のように社員も敏感に察知して、社内のギクシャクは深まる一方だと漏らしていました。

現代的な正しい判断が、必ずしも良い結果を連れてくるとは限りません。
そこにあったのは、正しさの証明ではなく、承継の翻訳の不在だったのです。

そして何より、この空白を一番強く感じているのは、後継者自身です。
父にも、社員にも、専門家にも言えない違和感を、一人で抱え続けることになるのですから。


4・「承継の翻訳」という視点を持つだけで、見え方は変わる

お分かりいただけたでしょうか?
親子の対立は、性格の不一致でも、努力不足でもありません。

40年の経験と、理論だけの知識という、根本的に異なる二つの言語を、誰も翻訳してこなかったことの結果なのです。

対立をそのままぶつけ合うのではなく、お互いの強みを翻訳し、融合させる。
それが「承継の翻訳」という視点です。

経営の達人の40年の経験からくる直感には、理論では説明できない正しさがあります。
素人の理論には、達人が見落としている盲点への気づきがあります。
どちらか一方を否定するのではなく、両方を活かす道を探ること。
それが、翻訳という作業の本質です。

この視点を持つだけで、先代の一言も、少し違って聞こえてくることがあります。
「なんでそんな条件を飲んだんだ?」は、否定ではなく、40年分の直感が漏れ出た言葉かもしれません。

だからといって、それをそのまま受け入れる必要はありません。
ただ、翻訳して受け取るか、そのまま受け取るかで、後継者自身の消耗の度合いは大きく変わります。

これは、後継者一人の努力だけで身につけられるものではありません。
長年その会社の外側から、多くの親子関係を見てきた第三者だからこそ、翻訳できる言葉があります。

先ほどのシステム化の例も、もし間に立つ第三者がいれば、違う展開があったかもしれません。
先代の「今まで問題なくやってきた」を、「変化への恐れ」ではなく「これまでの実績への誇り」として翻訳しつつ、後継者の「効率化したい」を、「否定」ではなく「会社を良くしたいという意志」として翻訳する。

そうした橋渡しがあれば、押し切るのでも、諦めるのでもない、第三の着地点が見つかった可能性が大いにあります。

あなたはもっと大きな視点に立たねばなりません。
だからこそ、そろそろ一人で悩むのは、終わりにしていいはずなのです。

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著者プロフィール
kirika-yuhi

著者:詳細プロフィール

「思考資産」承継デザイン研究所 
所長: 霧香 ゆうひ(夕燈) デコーダー/心理カウンセラー/作家

1961年生まれ。広島を拠点に全国の事業承継現場で、経営者と後継者の「魂の同期」を支援する専門家。
30年のHRキャリアで組織の力学を、14年の心理カウンセラー経験で人間の深層心理を、11冊の著書を通じて言葉の精錬技術を磨いてきました。

この三つが交わる場所に、私の専門領域があります。

私が提唱する「思考資産」とは、経営者の脳内に点在する「記憶・判断・哲学」をデコード(解読)し、次世代が迷わず使える「経営深層論理(DDL)」として構造化したものです。

法的・税務的な手続き(箱の整理)は専門家に委ね、私はその「中身(魂)」を救い出すことに全力を注ぎます。

一人の経営者の暗黙知を救うことは、組織を救い、文明が積み上げてきた知恵の総量を守ることに繋がる——これが、私がこの仕事を続ける理由です。

3万人超の事業承継・組織再生の現場に伴走してきた、日本唯一のデコーダー。

霧香ゆうひ

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